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仙台高等裁判所 昭和45年(ウ)41号 決定

申立人

別紙当事者目録記載の一一一名

代理人

樋口幸子

外四名

被申立人

川岸工業株式会社

主文

申立人らの本件申立を却下する。

理由

記録によると、本件は本件当事者間の仙台地方裁判所昭和四二年(ヨ)第四〇五号賃金支払仮処分事件につき同裁判所が昭和四五年三月二六日言渡した仮処分判決(被申立人に賃金の支払を命ずる申立人ら勝訴の判決)に対し、被申立人が控訴を提起すると共に右仮処分判決に基づく強制執行の停止を申立て、仙台高等裁判所が右申立を容れて同年三月二七日右仮処分判決に基づく執行を控訴審の判決があるまで停止する旨の強制執行停止決定をなしたところ、申立人らが右強制執行停止決定に対し特別抗告を申立て、それに伴い民事訴訟法第四一九条の三の準用する第四一八条第二項に基づき右強制執行停止決定の効力の停止を求めているものであることが明らかである。

しかしながら、民事訴訟法第四一九条の三において第四一八条第二項を準用した法意は、原裁判に対して特別抗告の申立をしても、その執行力が当然には停止されないため、特別抗告の申立の如何にかかわらず原裁判の執行が続行されることとなるが、若し、特別抗告の裁判により原裁判が取消された場合において、そのときまでに既に原裁判の執行が終了しているような場合には、原裁判によりなされた執行の結果を除去し原状に回復するために新たに別途の手段を講じなければならなくなるし、場合によつては右の別途の方法を講じても十分原状回復の目的を達することができないような場合も生ずるので、かかる結果の発生を防止するために、裁判所の裁量により、原裁判の執行を特別抗告につき裁判がなされるまでの間停止する等の措置を講じうるようにしたものと解するのが相当であるから、原裁判に対して特別抗告がなされた場合右法案によつて原裁判の執行の停止を命じ得るのは、右のような結果の発生を未然に防止する必要が存する場合に限られるものと解すべきである。

しかるに本件において問題となつている原裁判は、仮処分判決に基づく強制執行を停止する旨の執行停止決定であるから、たとえ特別抗告の裁判により右の執行停止決定が取消されても執行停止の効力が消滅し、仮処分判決の執行をなし得る状態となるだけであつて、特別抗告につき裁判があるまでの間に右強制執行停止決定の執行が終了し右停止決定に基づく執行を除去するために別途の手段を講ずる必要があるというようなことは生ずる余地がないのであるから、前記強制執行停止決定に対して特別抗告がなされたからといつてその効力を停止することは第四一八条第二項の前述のような法意に照し相当でなく許されないものといわなければならない。

よつて申立人らの本件申立を却下することとし、主文のとおり決定する。(松本晃平 伊藤和男 丹野益男)

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